28人が本棚に入れています
本棚に追加
***
美冴はにこにこと笑いながら、林檎ジュースのパックとお菓子が入ったビニール袋を差し出してきた。摩子はそれを受け取りながら、非常に申し訳ない気持ちになる。
派遣社員の彼女は、自分よりも給料が低い。そして、基本給というものがない時給制だ。休んだら休んだだけお給料が下がってしまうのに、自分のためにわざわざ休みを取ってくれたわけで。
「熱がある、とかではないんですかね?思ったよりは元気そうで良かったです」
「……ごめんなさい、心配かけて」
「いやいや、いいんですよ!これも後輩社員の務めというものです」
洗面所借りますねー、と言いながら彼女の姿が手洗い場に消える。摩子はそれを見送ると、ひとまず林檎ジュースを冷蔵庫へ入れた。よく冷やした方が美味しいだろう。お菓子は常温保存で良さそうなのでどうするか、とひとまずキッチンに箱を置いた時、自分がカップ麺を片づけたところであったのを思い出した。カップめんと一緒に食べたお茶碗やお箸など、流しの中に置きっぱなしになっている。さすがにこれはみっともないので、片づけた方が良いだろう。
人によっては、食べた皿などをいつまでも流しに放置して平気という人もいるが、少なくとも摩子はそうではない。後輩とはいえお客様だ。最低限はしたないところは見せたくないと思うのは当然のことだった。唯一の幸いは、一応一度は出かけようと思い立ったせいで寝間着からは着替えているということだろうか。
正直体はだるいし、化粧もしていないので目の下のクマは誤魔化せてはいないだろうが。寝間着姿のまま彼女を出迎えることにならなかっただけマシというものである。きっともっと心配させていたことだろう。
「課長とかも心配してましたよ。摩子先輩、今まで病欠なんて全然なかったって。真面目だし、有給とるタイミングもみんなに合わせてくれる人だったし。それが休んだなんて、よっぽど具合が悪いんだろうなって」
キッチンで洗い物をしていると、洗面所の水が止まる音がした。美冴が手洗いを終えたのだろう。
「だから、今日私がお見舞いに行くって言ったら、急なことなのに快く午後休を許可してくれました。元気になったらちゃんとみんなに挨拶した方がいいですよ!なんならお礼のお菓子は私も一緒に見ますよう!」
「もう、美冴ちゃんそんなこと言ってお菓子が食べたいだけじゃないの?」
「あはは、そうとも言います!」
最初のコメントを投稿しよう!