<28・発覚。>

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 天真爛漫、裏表がない彼女と接しているのは非常に楽だ。ふと、洗面所の鏡はちゃんと戻した後だっただろうかと不安になる。鏡を設置したままにしておけば、覗き穴は隠れる形となる。美冴が何も言ってこないなら、きっと自分はちゃんと鏡を戻しておいたのだろう。 「あ、シロちゃんこんにちはー!かんわいー!」  洗面所から出てきたところで、美冴はようやくシロの存在に気づいたらしい。足元にじゃれついてきた猫の頭を一撫でして、それでー、と間延びした口調で語る。 「最近、先輩悩みでもあるんですか?ここのところ具合が悪い時が続いていたみたいだし、実は大きな病気を抱えているとかありません?」  キッチンを覗きこんでくる美冴の顔は、純粋な心配の色に満ちている。摩子は曖昧に笑って、少し風邪引いていただけよ、と誤魔化した。  悪魔と契約したことも、その代償?らしき症状で色欲が高まって困っているなんてことも到底言えるはずがない。ましてや、何もない仕事中に突然欲情してトイレにかけこんでいますなんて、恥ずかしくて人様に語れることではないのだ。 「本当に、大したことないの。今日ぐっすり寝たから、明日には復帰しようと思っているし。……美冴ちゃん、とりあえず席に着いて待ってて頂戴。キッチン片づけたら、紅茶入れて行くから」 「はーい」  彼女は良い子の返事をすると、リビングに戻っていく。コップを空拭きしたところで、リビングから軽やかなメロディーが聞こえてきた。そういえば、スマホをテーブルの上に置きっぱなしにしていたなと思う。今の短いメロディはメールの着信だろう。  と、コップと皿を棚にしまったところで、掠れたような悲鳴が聞こえた。美冴の声だ。何かあったのか、とリビングに飛び込んだ摩子は――絶句することになる。 「あ、ああ、あ……」  美冴が、椅子から転げ落ちていた。その手には、摩子の携帯電話が。 「む、室井、せんぱ……こ、こここ、これ、なんです、か……?」  摩子は、思い出した。そうだ、自分はついさっきまで気持ちを落ち着けるため、佳澄の死体の写真を眺めていたのではなかったか。  己のスマホをどこかに放置するなんてこと、基本的にはしない。一人暮らしだからというのもある。だから油断して、ロック画面の設定もしていなかった。だから。  多分、メールの着信と同時にスリープが解除されて、美冴がなんとなく画面をちょこっと触ってしまったのだろう。そして。  その結果、表示されたのだ。
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