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誕生日ケーキと黒い月.2
部屋のドアが緩くノックされる。
寮生活も3年目。
生活もすっかりルーチンとなれば、若者ばかりの暮らしとはいえ、一年の初め頃みたいにそうそうテンションが高くなることもなく、夜11時の訪問も、そうあるもんでもない。
誰だろうと開けたドアの向こうにはTシャツとジャージ姿の地央さんが立っていた。
うわぁ。
風呂上りだぁ。
火照って朱のさした頬。赤い唇。桜色の肌。
まだ乾ききってない髪からのぼるシャンプーの香りが今にも漂ってきそうだ。
やばい。
眼鏡かけてないから美しさと色っぽさのリミッターが解除されてる。
思わず喉がなる。
「課題進んだ?」
地央さんがドアを支える俺の腕の下をくぐって中に入るのに、思ったとおりシャンプーの香りが鼻を掠めてしまっては、下半身がざわつくのは致し方ない。
そんな俺の下半身事情を知らない地央さんは、いつもの場所に腰を下ろし、手に下げてきた白いレジ袋の中からマニアックな種類のペットボトル紅茶を取り出して勝手に飲み始めた。
それにしても、この人はいつもどこで見つけてきたんだって変わり種のものを飲んでる。
「ん」
「ども」
差し出されるコーラを受け取り、形を成し始めた股間を見咎められないよう、やや前傾姿勢で窓際の椅子に座った。
「どうしたんすか、珍しい」
目を悪くしてから寝るのが早くなったらしく、いつもならもう寝ている時間だ。
「ん。眠いから起きてらんないと思って」
可愛らしい飾らない笑顔が向けられると、自分が的になって射抜かれた気分だ。
下半身がいよいよ祭りの前夜のように浮き足立ってくる。
「あ、これ、ケーキ的なやつ」
大きく開けられたレジ袋の中にはコンビニのケーキがひとつ。
「え?」
「どーせなら一番に祝いの言葉を送ろうと思って」
少し照れたように視線を泳がせる地央さんがやたら可愛い。
「マジで?」
地央さんの話は前後が飛ぶのでたまにわかりづらいが、要は明日誕生日の俺を一番に祝いたいが、一人だと寝てしまうので部屋に来た、と。
改めて心うちで確認して体温が上がった。真ん中が一層ズクンと熱くなる。
「えーと、あの、それは……」
黒川、誕生日おめでとう。プレゼントもらってくれる? ……俺、なんだけど、的な?
うわああぁー!!
それはヤバすぎるーっ!!
欲しいーっ!!
「おい黒川、変なことしたら速攻帰るからな」
鋭い刀がバッサリと袈裟がけに下ろされた。
「ええー……」
「さっさと課題やれよ。俺のことは気にするな」
言いながら勝手にポータブルテレビをつけている。
っくそー。
俺は机の上のセミナーとペンを手にして、ドッカリと地央さんの横に腰を下ろした。
すると片耳のイヤホンを外して「机でやれよ」と言いながら迷惑そうな視線を向けてくる。
何なの?
デレツン?
「酷いっ! 私のテレビだけが目当てなのね!?」
俺の悲痛な声は「はいはい」ととんでもなく軽くあしらわれ、視線は完全にテレビに持って行かれた。
───なんか釈然としない。
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