Prologue―誕生日の出来事

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Prologue―誕生日の出来事

 忽那巽(くつなたつみ)は、なにも知らなかった。  自分がオメガであるということくらいはさすがに知っているが、「そもそもオメガとはどんな性か」「恋とはなにか」「ヒート(発情期)とは」「性行為とは」「どうしたら赤ちゃんができるのか」「性暴力とは」などについては、まったく知らない。  オメガ差別を恐れた祖父母の手で生まれたときから自宅に軟禁されており、与えられる情報は子ども向けのテレビ番組や、性に関する情報が出てこない、ファミリー向けのアニメのみ。  そのうえ、巽は一般的にヒートが起こるとされる十七歳になってもそれが起こらず、だからこそ性知識の習得が遅れた、ということも一因だっただろう。  そのために、十一月七日のこの日。  巽は「運命の出来事」に出会ってしまう。 「君が巽?」  夜の十時半を過ぎて、巽が灯りを点けっぱなしで自室のベッドの中でうつらうつらしていると、部屋の中に見知らぬ男が入ってきた。  天から舞い降りてきたかの如きその姿に、巽は一目で見惚れた。
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