今は遠くても

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「なあ、ちょっと時間ある?」 何事かと思ったら 今日、自分達のフォームをチェックするのに動画を撮ってくれる人が居ないと 「素人で良ければ喜んで」 引き受けてみた 第一走者・第二走者・第三走者と 撮って行き ラスト第四走者はアイツ 線は細いのにたくましく、格好良く流れるように走る まるで黒豹かチーターかって感じ 動画を撮りながら赤いハチマキがアイツの後ろ流れていたら 絶対格好いいはずと思った 「幸田~撮れた?」 明るい声で寄って来る 「これで平気か?」 アイツのスマートフォンを渡す 手が触れた 汗でシットリしてる手は、何だかエロかった 何故そう思ったかわからないが 下半身が熱くなる 「あ、オレ被服室行かなきゃ」 慌てて立ち去ろうとした 「幸田!!助かった!!ありがとう」 笑顔でお礼を言われた 右手を上げて別れた 「オレ…やっぱりアイツの事好きだわ」 顔が真っ赤になっているのがわかる オレは、手が触れた指先を頬に近付けまた、アイツの声を探す オレは、次の日からハチマキを作る いくつもいくつもハチマキを作る ただ、赤組のリレーアンカーのハチマキはまだ… アイツのハチマキ アイツが走ると 長いはちまきが風になびく そんなハチマキを作る アイツの身長、一番速く走る時 ハチマキが流れるように長さを計算する そしてハチマキの一番端に紫色の葉っぱを刺繍する 「まるで千人針みたいだな」 そう口にしながらオレだけの千人針 勝ちますように 怪我しませんように 世界一になりますように …オレの事好きになりますように 繰り返し、繰り返し、思いながら 紫色の葉っぱを刺繍する 「紫葉(しば)!!」 オレは、紫葉を呼び止めた 「幸田?どうした?」 呼び止められて不思議そうな顔をしている 「あ、これ…運動会のリレーのアンカーハチマキ。アンカーは少し長く作ってある」 「あっ!ありがとう」 受け取ってハチマキをして見せてくれる 「本当だ、無茶苦茶長い」 オレに笑顔を見せて来た 「これ、お前専用だから。学校に返すのはこっち返して」 二本目の赤いハチマキを渡す 「ん?オレ専用?」 「ああ、お前世界一になりたいって言ってただろ? オレも世界一のデザイナーになりたいから願掛けだ」 そう言って締めたハチマキの裾を掴んで見せた 「ん?紫色の葉っぱ?」 あまりピンと来ていないようだ 「お前紫葉だから…デザイナーのはしくれのオレが願掛けで刺繍した紫の葉っぱ。紫葉…お前だ。世界に連れてけ…」 うっすら涙声になってしまった 「…ありがとう オレ負ける気しないわ このハチマキ世界に持って行くよ 一緒に世界見ような」 運動会のリレーは盛り上がった やはり赤組アンカーの紫葉が断トツ早くて ハチマキが風になびいて格好良かった 特に片方刺繍がしてあるから少し重く 後ろに垂らしたハチマキが重ならず綺麗に二本、風になびいてる 「当たり前だ、誰が作ったと思っているんだよ」 アイツは、オレのモデルだからな そんな事を思いながらアンカーを見つめた 「エモーン!!勝った!!お前のお守りスゲエ!!」 「オレの力じゃない(はじめ)の力だよ」 「いや、笑門がいるから勝てた」 「よくわかんねぇけど…おめでとう」 「な、オレが世界一になったら笑門に話したい事あるって言っていい?」 「え?今じゃダメなのか?世界一にならないと聞けない話しか~ じゃあ、オレも世界一のデザイナーになれたら話したい事話していいか?」 二人見つめ合い笑った 「オレら、世界一にならないと大切な話が出来ないのか~」 「ま、世界一になろうぜ!!」 「たまには、会おう」 「ああ、経過報告しないとな」 それから直ぐにオレも紫葉も春からの行き先が決まる 紫葉は、陸上の名門大学が推薦で決まり オレは、被服専門学校へ入学が決まる 高校三年の秋はあっという間に過ぎ 冬に突入 ほぼ学校は、行くこと無い だからオレは、紫葉用にスーツを仕立てようと頑張ってみた 12月末から2月末 約2ヶ月チャコペンやまち針、裁ち鋏と格闘し 紫葉用のスーツを作った 卒業式後に被服室へ来てくれと呼び出し 女の子達にもみくちゃにされてる校庭からいつの間にか消えていた 「あれ?居ない?」 被服室の窓からキョロキョロ探していたら 扉がガラガラと開く 「笑門、ごめん。お待たせ」 ネクタイがひん曲がり ジャケットを引っ張られたような跡があり ここに来るのが大変だったと想像出来る 「一、大変だったみたいだな」 ちょっと笑ってしまった 「笑い事じゃないよ?笑門。で、どうした?」 「卒業おめでとう。エモンブランド第一号作品、もらってくれ」 そう言って黒の強いダークネイビーのスーツを手渡した 「え?」 「学校休みで暇だったからスーツ作ってみた。 多分、お前の体型に合うはず。着てみ?」 そう言うと制服のジャケットを脱ぎ 背中の生地は、モンドリアン柄のベストを身に付け これもモンドリアン柄の中生地の ジャケットを羽織る 「笑門…スラックスもいい?」 「勿論」 一は、躊躇無くオレの目の前で着替える 世界一のデザイナーになったら パリコレやミラコレの裏舞台もっと凄いはず 一のパンツ姿で慌てられるか!! 邪悪な考えを説き伏せ目を瞑って待つ 「笑門、見て!!似合う?ピッタリ?」 パリコレのモデルかのように オレの方にランウェイしてくる ああ、やっぱり似合う 顔がほころぶ 「一、世界一になった時のお前の一張羅全てオレに作らせろ」 「いいのか!?」 「ああ、一とオレ二人で目標に向かう同志。お前の栄光にすがる!!」 二人顔を見合わせて笑った 「本当にオレら頑張ろうな」 「ああ」 固い握手で卒業した ━*━*━* ちなみにモンドリアン柄はこちら 目にした事ありますよね 95e0609c-e4c5-4687-85d8-b6d7e7d361e3 これがスーツの裏地とベストの裏地になっている 設定です …派手だな、エモン😅
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