1 異世界

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 バスで市街地まで出て、お目当てのファストフード店に入る。  店内は学校帰りの学生だらけだった。休み明けで友達と積もる話でもあるのだろう、そのために安価で涼める場所を確保したいという気持ちはみんな同じらしい。  眞哉がバニラシェイクを注文し終えたのを見届けてから、後ろに並んでいた俺も前に進み出て注文する。 「えっと、野菜ジュースひとつ」 「はぁ? 野菜ジュース?」  隣にずれて待つ眞哉は怪訝そうに、カウンターのメニュー表と俺を交互に見る。 「お前いつからそんな意識高い系女子みたいな趣味になったんだよ」 「え?」  言われてみると、たしかにそうだ。  前までは、迷いなく炭酸飲料を注文していたはずだったから。 「……そうか、異世界の後遺症だな」  そう言うと、眞哉はブフッと音を立てて吹きだした。  飲み物を受け取って席に座っても、眞哉は笑いが止まらない様子だ。 「野菜ジュースを飲む後遺症なんて、どんな異世界だよ。あれか? 吸血鬼に血でも吸われた?」 「お前、全然漫画読まないくせになんで吸血鬼とかぱっと出てくんの?」 「いや、読んだことはあるよ。お前がはまってたやつで、サイトで無料で読めるやつはいくつか。だいたい2~3話でギブアップしてるけど。それより、血を吸われてどうなったの? (あと)残ってる?」 「違うよ。吸血鬼じゃなくてさ。俺が行ったのは昔の日本みたいなところで、炭酸飲料やハンバーガーなんてない質素な暮らしをしてたから、体が欲するものがちょっと変わったのかもしれない」 「アハハハッ! それで野菜ジュース? 設定に忠実すぎんだろ」  信じると言ったくせにまだ信じていないらしい眞哉は、まじめに話している俺の目の前で遠慮なく爆笑してやがる。  しかし、そう考えると、眞哉の顔が丸く見えるのも異世界の人たちの痩せ具合を見慣れたせいかもしれない。
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