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2 カムバック
その日俺は帰りが遅くなった。
家に帰りついて電気をつけ、エアコンを入れて蒸した部屋に冷気を流し、そのままキッチンに立ってケトルでお湯を沸かし始め、帰りにコンビニで買ってきたカップ麺のパッケージを開けた。
部屋の温度が下がり始めた頃には、熱々の湯気を上げるラーメンが出来上がった。
たったこれだけのことで簡単に食事がとれる。文明とは有り難いものだと、しみじみ思いながらそのラーメンを食べ始めた。
今日もこうして何気ない一日が終わっていくのだろう。
あっという間に完食。
エアコンはまだ、部屋を冷やすべく精力的に強風を吐き出し続けている。
その音がちょっとうるさいなと感じて、風量を下げようとリモコンに手を伸ばした、その時だった。
「かいとさん~、忘れもの忘れもの~!」
次第に近づく声に驚いて振り返ると、そこには生成り色の和服姿の美少女が、ふんわりと宙に浮いていた。
胸元には濡れた紙の束に見えるものを抱えているが、間違いない、異世界で洗濯されてしまった、数学の問題集だ。
「え、アコ!? なんで……?」
「忘れもの届けに来ましたぁ」
アコは床に着地し、にっこり笑いながら問題集を差し出す。
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