1 異世界

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1 異世界

「だから、忘れてきたんです、異世界に!」  夏休みの宿題だった数学の問題集を提出できず、教室でみんなの前で先生に詰められる。  そんな悲しい立場に置かれた俺は、もうこれ以上言い逃れはできないと思って事情を打ち明けた。  進学校だから、勉強に厳しいのは当たり前。  しかも提出してから返却されるまで3日あった。  忘れたなら忘れたでなぜその間に持ってこなかったのか、と怒る先生の気持ちもわかる。  だから正直に言ったのに。 「何が異世界だ。ふざけたことを言うな。問題集をなくしたってことか? それなら新しいものを渡すから……」 「違います! 本当に異世界に忘れてきたんですってば!」  嘘つきにされてしまってはかなわないと必死に訴える俺を、クラスメイト達がじわじわと笑う。 「もういいじゃん、海翔(かいと)。俺の写させてやるからよ」  クラスの後方の席から、親友の内田眞哉(まさや)が面白がってヤジを飛ばす。 「お前のなんか間違いだらけだろ」 「失礼だな、半分は合ってたわ」 「マジか、天才かよ」  どうでもいいやり取りに、どっと笑いが起きる。  みんなは盛り上がっているが、目の前の先生は呆れ顔。  はぁっとため息をつき、 「来須は問題集を取りに職員室に来るように。内田はきちんと復習しとけよ」 「俺だけですかー」 「みんなだ、みんな」  そしてタイミングよく鳴ったチャイムのおかげで、数学の授業は終わった。
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