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「好きです」
もう二度と後悔をしたくはなくて、白い手を握りしめる。ずっと、自分より大きいと思っていたもの。
「愛しています」
偽りのない、本音だった。その感情に気がついたときから、言わないでおこうと決めていた。でも、もう、自分ひとりのものにしておけなかった。
たとえ受け入れてもらえなかったとしても、困らせたとしても、知ってほしい。切実な思いで、なにも反応を返さない彼に言い募る。
「弟子としてではなく、ただひとりの男として」
やはりなにも反応はない。彼の手を握る自分の手に、テオバルドはぐっと力を込めた。伝えたいことなんて、いくらでもあった。
森の家を離れて学院に行っていたあいだの三年間も、そのあとのことも。
でも、本当は、そのいずれをも、大好きな瞳に告げたかった。はじめて見たときに心を奪われた、緑の瞳。
その瞳が明かないなどということは、絶対にあってほしくない。許せるわけもない。
「師匠は」
気がついたときには、子どものような声がこぼれ落ちていた。
「いつも、勝手に俺を置いて行く」
でも、そうだ。たった一枚の手紙で、北の僻地に行ってしまったこともそうだし、このあいだ、自分に助けを求めることはない、と即座に切り捨てたこともそうだ。
なにかあれば助ける、なんて。それが師匠の務めだ、なんて。そんなこと、いっさい求めていなかったのに。
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