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溜息を呑み込んで、アシュレイは子どもに目をやった。イーサンと同じ夜色の髪に、星を持つ金色の瞳。少女のように整った顔。
いくつになると聞けば、七つになるのだという。まだほんの子どもではないか。困り果てていると、おずおずとその子どもが口を開いた。ぺこりと深く頭を下げる。
「テオバルド・ノアと申します。師匠、どうぞよろしくお願いいたします」
「……」
師匠もなにも、よろしくを受け入れた覚えはいっさいない。無言のまま、アシュレイは子どもを改めた。イーサンの言うとおり、たしかに魔法の才はある。育てば、それなり以上になるだろうとも思う。だが。
――弟子を取るということは、この家に住まわせるということなんだが?
無論、イーサンも承知の上であろう。その証拠に、息子は膨らんだ鞄を持参している。弟子入りが決まり次第、ここに残ると言わんばかりだ。
想像の段階で面倒極まりなかったし、プライベートな空間に他人を入れたくもない。非難を含んだ視線を、頭半分ほど背の高い男に向ける。
当初の神妙な態度をどこへやったか、イーサンは承諾することを疑ってもいない顔をしていた。本当に性質が悪すぎる。
しかたない、と。アシュレイは被っていたフードを取り払った。短い金色の毛先が、ばさりと春の青空に舞う。
「あ……」
子どもが息を呑んだ気配に、そうだろうと得心する。
どう見積もっても十五、六にしか見えない自分の容姿のことも、呪われた緑の瞳のことも。町の人間がどう噂しているのか、よくよく承知していたからだ。
身丈ほどの杖を持つ、正体不詳の森の大魔法使い。それがアシュレイ・アトウッドだった。
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