第3話「うりゅにかかればこんなもんよ」

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 カウンターでひとり、瓜生田は葛飾から貰ったメールの束を睨んでいた。印刷されたメールの文章に、赤のボールペンで色々な記号や言葉を書き込んでいく。傍らにはプロファイリングの参考資料にしているのか、いくつかの分厚い本が積み重なっていた。図書室内の巡回から戻ってきた阿丹部は、瓜生田の様子に半ば呆れながら声をかけた。  「めっちゃガチでやってるじゃん……」  「すみません阿丹部先輩。お仕事ほとんど押し付けちゃって」  「別にいいよ。李下ってなんでもできるんだね。この前も、アリスちゃんからちょっとオカルトを教わっただけで、詩の暗号を解いちゃったらしいじゃん」  「先生が良かったんですよ」  阿丹部への気配りも謙遜もしながら、目と手は止まらず動き続けている。聞いた話だと運動はからっきしらしいが、机に座れば瓜生田の器用さと万能さは目を見張るものがある。特にそれが牟児津のためとなれば、他の何を置いても最優先で100%全力を出し切るという。  「何か分かった?」  「……気になる点はありますね」  「あるんだ。すごっ」  「ノアさんから送られてくるメールなんですけど、送信時刻がどれもピッタリ00秒なんです」  「なんそれ。どゆこと」  「メールを送る時間帯はバラバラなので、送信時刻そのものに意味はなさそうです。学園生なら授業や部活でどうしてもメールできない時間帯があるはずですが、敢えてその時間に重ねて送られてるということは、おそらく予約送信機能を使っています」  「ふーん。そーなん」  「メールの送信時刻をバラつかせることで正体がバレないようにしてる……逆に言うと、メールをすぐに送信したら送信時刻で正体がバレるってこと?予約送信はパソコンでもスマホでもできるから……文字を打った時間が分かれば……」  「こわっ」  牟児津と葛飾には期待し過ぎないよう言っていた割に、メールを睨む瓜生田の眼差しは真剣だった。普段の瓜生田は、どんな激務の中でも朗らかに微笑み、のらりくらりと仕事を(こな)してはいつの間にか時間を作って本を読んでいる優秀な生徒だ。だからこそ必死の形相を見せる今の姿は、阿丹部には異様に映った。  「んん……私はあんまり強く言えないけど、頑張るのもほどほどにね。今はいいけど、片付けだけは手伝ってほしいかな」  「ありがとうございます、阿丹部先輩」  おそらく瓜生田は、牟児津のために牟児津の見ていないところでこれくらいの努力は当然にしているのだろう。そうでなければメールの束を受け取ったときに、あんな風に謙遜はできない。  それが何であれ、本来すべきことを投げうってでも全身全霊でやらなければならないことというのは、阿丹部にも多少の覚えがあった。なので図書委員の仕事そっちのけでメールに赤ペンを走らせる瓜生田を止めることはできなかった。
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