第2話「小説の真似事ですよ」

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 「ということがありまして」  「そっかあ。それでムジツさんがこんな前衛的な顔に」  「う゛り゛ゅ゛う゛〜゛〜゛〜゛!゛!゛な゛ん゛ど゛が゛じ゛で゛ぇ゛〜゛〜゛〜゛!゛!゛」  「そんなにしがみついても、私のお腹にふしぎなポッケはないよ」  広報委員室を出た二人は、瓜生田を頼るため図書室に直行した。瓜生田は二人より一学年下の後輩だが、牟児津が困ったとき大いに力になってくれる、頼れる後輩である。今は図書委員会の仕事があるため、図書準備室内で二人から事情を聴いているところだ。  「また厄介なことに巻き込まれちゃったねムジツさん。よく飽きないね」  「こちとら好きで巻き込まれてんじゃねえや!!」  「ちょっと牟児津さん、隣が図書室なんだから静かにしてよ」  「あ、ご、ごめんなさい……」  瓜生田に全力でつっこむと、図書準備室で仕事をしていた阿丹部(あにべ) 沙兎(さと)に注意されてしまった。阿丹部は瓜生田と同じ図書委員で、牟児津たちと同じ2年生である。つい先日、所属するオカルト研究部(現オカルト研究同好会)を中心に起きた事件で、牟児津に大きく助けられたところだった。  「大変そうだけど、なんかあったの?」  「実はムジツさんが、広報委員から蒼海ノアの声優をやってほしいって頼まれてまして」  「蒼海ノア……ああ、あのVストリーマーね。大変ねえいろいろ巻き込まれて」  「ホントだよ。だいたい私には向いてないんだって」  「確かに牟児津さんとはキャラ違い過ぎるか……」  「そこじゃないよ?」  「元の声優担当の人の手掛かりはありますか?」  「広報委員会で過去のメールの記録を頂いてきました。後は広報委員の副委員長から伺った蒼海ノアの特徴くらいです。これがまた真白さんとよく似てまして」  「いや似てないってば」  「甘いもの好きで、自分の体にコンプレックスがあって、周りを巻き込む不幸体質だそうです」  「おお〜、確かにムジツさんっぽいけどちょっと違いますね」  「ほーれ見ろ!うりゅは私のことよく分かってんだ。よしうりゅ!言ったれ言ったれ!」  「ムジツさんの巻き込まれ体質で不幸になるのはムジツさんだけです。周りはむしろ助けられるくらいですから、そこだけ違います」  「そこじゃない!コンプレックスなんかないから!」  「え、ないの?」  「そのリアクションもういいわ!」  散々つっこみまくった牟児津は、そのまま瓜生田の膝の上でぐったりしてしまった。瓜生田には十分伝わっているが、他の二人にはいまいち牟児津の必死さが理解されていないようだ。  「ムジツさんを助けるのは(やぶさ)かじゃないけど、委員会の仕事があるからなあ。今日はヘルプで来られる人もいないし」  「そしたら、これ取扱注意って言われてるんですけど、瓜生田さんにお渡ししてもいいですか」  「えっ、私なんかが持っちゃっていいんですか?」  「きっと、瓜生田さんの方が私たちより有効に活用できると思うので」  「そうそう!なんかこういう何気ないメールから犯人を絞るやつあるじゃん!リングファイルみたいなやつ!」  「プロファイリング?」  「そうそれ!やってやって!」  「手品みたいに言うなあ。いちおうやってみるけど、あんまり期待しないでね」  「やれることはやれるんだ……李下ってどこでそういうスキル身に着けんの」  「やだなあ。小説の真似事ですよ」  へらへらと笑いつつ、瓜生田は葛飾から受け取った紙の束を数え、でたらめになっていた順番を揃えてクリップで仕分けた。話をしながら片手間にそんなことをやってのけるので、その場にいる3人とも、瓜生田なら本当にプロファイリングできてしまいそうな気になってきた。  「蒼海ノアの声を当ててる人──長いからノアさんって呼ぼうか、ノアさんについて何かわかったら連絡するね」
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