第2話「小説の真似事ですよ」

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 ノアさんについて瓜生田がプロファイリングをしている間、牟児津と葛飾は情報を足で稼ぐことにした。  「結局、私たちにはこういう方法しかないんですよ。面倒くさそうな顔しないでください」  「でも、どこをどう調べたらいいか分かんないし」  「だから足を動かすんじゃないですか。地道な努力を足掛かりにして事件の手掛かりを見つけるんです」  「無駄なんじゃないかってことが気掛かりだよ」  とにかく蒼海ノアについて聞き込みをしていくしかないと、二人は自分たちのクラスに戻った。ほとんどの生徒は部活動や委員会活動に出てしまっている。残っているのは数名だった。葛飾はそのうち、教室の掃除をしていた時園(ときぞの) (あおい)に声をかけた。  「時園さん。少しお時間いいですか」  「え……なに?また何か厄介事に巻き込まれたの?」  「よく分かりましたね」  「牟児津さんの顔を見れば分かるわよ。もう2回見たから」  振り返った葛飾は、この世のあらゆる理不尽を憎むような牟児津の顔を見た。こうも厄介事が次から次へと舞い込んでくれば、そんな顔になるのも仕方ない。ただ幸いなことに、このクラスにいるほぼ全員が、牟児津は厄介事に巻き込まれやすいということを理解していた。  「分かることしか話してあげられないわよ」  「それでも構いません!むしろ、分かることだけ教えてほしいんです!」  「いや葛飾さん、必死過ぎて怖いから。落ち着いてよ」  「あっ、ご、ごめんなさい……。あの、蒼海ノアについて、知ってることを教えていただきたいんです」  「ノア?ああ、動画のアレね」  どうやら時園は名前を聞いただけで、広報動画に出演しているキャラクターだと理解したらしい。牟児津と葛飾が知らなかっただけで、やはりそれなりの知名度はあるようだ。  「知ってることと言っても、普通にうちの学園の宣伝キャラクターっていうだけじゃないの?」  「なんというか、こう……もっとパーソナルな部分とか、個人情報とかは」  「ええ……設定ってこと?それなら広報委員会に聞けばいいんじゃないの?」  「設定とかじゃないんですけどあの……」  巻き込まれた事件についての言及を避けようと慎重になるあまり、葛飾の質問は要領を得ない。しびれを切らした牟児津が交代する。  「時園さん、蒼海ノアの声ってうちの生徒がやってるって知ってる?」  「ああ、そうね。校内で募集してたし、学生生活委員も応募の呼びかけに動員されたから覚えてる」  「誰がやってるかとか知らない?」  「そこまでは知らないわね。それこそ広報委員に聞けばいいじゃない」  「うーん、正論だ」  「あ、でも」  時園が、何かを思い出して手を叩いた。  「確か応募数が振るわなくて、それなのに応募者にオーディションしたっていう強気な決め方だったって話は聞いたわ」  「そうだったんですか?」  「いちおう学園外部に向けたものだし、面白半分で応募してきたような人とか、能力と熱意のバランスが合わない人とか、そういうのはお断りしようってことだったんでしょ。当然といえば当然だけど……ちょっと敬遠されちゃってたわね」  「こだわりですかね。旗日先輩の」  「そう。旗日先輩のテンションと企画について行けるっていうのも応募条件だったから、余計に少なかった」  それが最も大きな障害になっていたのだと、牟児津と葛飾はなんとなく察した。ともかく、蒼海ノアの声優に応募した生徒は相当少ないようだ。  「応募した人って知らない?」  「ひとりうちのクラスにもいるわよ。最終的に辞退したらしいけど」  「えっ!?だ、だれですか!?」  「ん〜……ま、いいか。本人も普通に言ってたし」  時園は、いちおう教室にいる他の生徒に聞こえないように少し声をひそめて、二人のその名前を告げた。
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