第2話「小説の真似事ですよ」

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 「んがっふっ!……へあ?あれ。私、寝ちゃってましたあ……?」  「おう!おはようみゃーこ!」  広報委員室のソファで、蛍恵は目を覚ました。牟児津たちの前で自己紹介もそこそこに寝入ってから、1時間ほど熟睡した後の覚醒だった。未だ睡眠不足の頭はぼんやりと靄がかかったように思考がはっきりせず、脳の中心がズキズキと痛む。一ツ木の無遠慮な大声が脳の髄まで響いた。  「ごめんなさぁい」  「蛍恵。お前は働き過ぎだ。ちゃんと自分を労ることも良い仕事のためには必要だぞ」  「えぇ〜、でもいっぱい働くのはいいことだと思いますよ〜?旗日委員長は毎朝一番に来て毎日最後までバリバリやってるじゃないですか〜」  「お前は夜じゃない。無理をしても体を壊すだけだ」  「ぶぅ……旗日いいんちょ〜、ふくいんちょ〜がいじめます〜」  「大丈夫ミヤコ!?ユーリ!ミヤコは頑張り屋さんの良い子なんだから怒っちゃダメよ!あ、分かった!きっと嫉妬してるのね!ミヤコがワタシによしよしされるのが羨ましいんだわ!もう!素直じゃないんだから!こっちいらっしゃい!まとめてよしよししてあげる!」  黄泉は眉間をおさえた。蛍恵は旗日に憧れを抱いている。それはいい。しかしその憧れが強すぎるあまり、旗日のためと無理をするきらいがある。もともとそれほど器用ではなく、人より体力があるわけでもないのは、不健康そうな目の周りのくまを見れば明らかだ。それでも旗日について行こうとすることは、決して蛍恵のためにならないと感じていた。それもこれも、旗日が蛍恵を特に褒めちぎって甘やかすことに問題がある。広報委員会は旗日がいてこそ成り立つが、同じく旗日がいるために機能不全を起こしている。  「購買に猿ぐつわはあったかな」  「何する気よ!?」  「濡れタオルが…………か、代わりになる…………けど…………」  「そういや結束バンドも余ってたっけなァ」  「着々と!!ごめんごめん!静かにする静かにする!もう、みんな怖いわねミヤコ……。ワタシ、委員長として尊敬されてないのかしら……」  「ふわぁ、私は委員長のこと尊敬してますし、よしよしもされたいですよ〜」  「あーもうカワイイわねミヤコは!よしよしよしよし!!」  「アイマスクと耳栓も準備しておけ」  「ひぇーっ!」  「ところでぇ、さっきの方たちはどこ行っちゃったんですかぁ?」  拘束具を持った一ツ木に追い詰められる旗日を尻目に、蛍恵は寝る前までいた牟児津と葛飾の行方を気にする。何か大事なことを聞いたような、そんな気がしていた。  「あの二人なら、蒼海ノアの正体を捜しに出た」  「どっか行かれたんですねえ」  「見つからなければ牟児津さんが二代目を務めるから、牟児津さんの声を今の声に似せるための作業が増える。今の蛍恵にさらにタスクを増やすのは心苦しいが……」  「はぁ……そうなんですねぇ……じゃあ、見つかるとぉ、いいですねぇ。ぐぅ……」  自分で自分が何を言っているのかはっきりしない。なんだかまだ寝惚けているようだ。上手く考えがまとまらない。蛍恵は、もうひと眠りしてから考えることにした。  「蛍恵さん…………相当です、ね…………」  「身を粉にすることを美徳と思っているやつが上に行くと下は苦労する。蛍恵が後輩を持つ前に、今の働き方を変えなければ……」  「せ、責任重大…………」
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