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エピローグ
絵画教室を開くことを決めたのは、本当に成り行きだった。
絵は昔から得意だったし、子どもも好きだった。
たまたま友人がお店として使っていた一階の部屋の一つが空いたため、使わないかという話を持ちかけられた。
美術教師の免許はとったものの、学校という場所を離れたくて、定職につかずにふらふらとしていた時期だったこともあり、二つ返事で了承した。
最初はなかなか人は集まらなかったが、人づてに噂が広まりいつの間にか5人もの生徒が集まってきてくれた。
ここは自由を重んじる。
絶対に何をやらなきゃいけないとか、そんなことはない。
皆がそれぞれ、この教室にあるものの中から好きなことをして過ごす。
三つ編みの女の子は、大きな恐竜の絵をクレヨンで描いてる。
青色で描かれたそれは今にもはみ出しそうなほど、画用紙いっぱいに描かれていた。
「大きな恐竜だね。」
「こっちがパパなの!
こっちはママと凛!」
指さした先には小さな黄色と緑の丸。
その大きさの違いが面白い。
「パパはとっても大きいんだね」
「うん!」
体は青色の上から赤を重ねている。
変わっていく色味を見ながら、物思いにふける。
明日は年に一度の天狗祭りだ。
かつてこの村には天狗が棲んでいて、実際にお祭りで舞を舞っていたらしい。
今はもう天狗はいない。
代わりに人間が天狗に扮して舞を舞う。
この村である唯一の祭りで、子どもたちもとても楽しみにしている。
俺の祖父は天狗で、かつてこの村の学校で美術教師をしていたそうだ。
まわりの村人はどんな反応だったのだろう。
学校では『若葉先生』と呼ばれ生徒から慕われていたらしい。
当時は村に結界がはられていて、村の中の人たちは一緒に生活している天狗に対して何の違和感も抱かなかった。
妖怪が人間と一緒に生活しているなんて、とても不思議だけど、そんな優しい世界を俺も見てみたかったと、子どもの頃からずっと思っていた。
祖父母は結界が解かれた後、一緒に山奥で暮らすようになった。
その後、契を交わし、子どもが産まれた。
それが父。
父は天狗の羽もないが、どことなく人間離れした容姿ではあった。
その父もまた人間の女性と結婚して、俺が産まれた。
俺にはもう、羽の名残りのようなものしかなく、ほとんど天狗の血を継いでいることはわからない。
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