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「駅員さんに預けたりしたら、時間取られるわよねぇ」
正直、一刻も早く家に帰ってパンプスとストッキングを脱ぎたいというのが本音だ。
「めんどくさいなぁ」
私は薄汚れたパスケースを手にためいきをついた。
「身分証とか入ってないかな?」
そう思って手の中のパスケースを探ってみる。
二つ折りのそれはべっとりと塗料のようなもので圧着されて開けない。表面はバリバリになっていて、赤黒いサビのような粉を撒き散らしている。
「ヤダ、なにこれ! 気持ち悪っ!」
私はトイレに駆け込むと、サニタリーボックスにパスケースを突っ込み、洗面所で念入りに手を洗った。
「こんなの、届けたって持ち主なんか出てこないわよ。捨ててあったのよ、きっと!」
ゴミを押し付けられたイライラを吐き出しながら、私はトイレを後にした。
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