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――一夏の知っておきたいっていう気持ちも、まぁ、わかるんだけど。
兄としては、自然な感情だろうとも思う。ただ。
――準がけっこう嫌がってたからなぁ。
一夏に対する過剰なまでの劣等感と言えばいいのかは、よくわからないけれど。少なくとも、関わることを嫌がっていることは事実のはずで、その実態を近くで見ている以上は、準平の感情を優先したかった。
今の篤生にとって、それは、ごく当然の思考だった。まぁ、でも、と返事をして少しほっとした心境で思う。気になったとしても、一夏はこれ以上は食い下がってこないだろう。同じ温度の当たり障りのないやりとりを一、二回繰り返したら、それで、終わる。
そう踏んだのは、幼馴染みとして過ごした――勝手な片思いでずっと見ていた時間で得た経験則からだった。良い意味でも悪い意味でも、あの幼馴染みはプライドがすこぶる高くできている。その一夏が、自分に縋るような真似をするはずがない。そのはず、だったのだが。
「……え?」
思っていた以上に早かった返信に目を落とした瞬間、また声がこぼれた。思わず、文面を見直す。けれど、書いててある内容は変わらない。
――今度会わない? って、一夏が?
にわかに信じることができないのは、幼いころから遊びに誘う役目の九割が自分だったから、なのだろうか。
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