12.自覚

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 最後まで読みきることができないまま、篤生は反射で画面を閉じた。心臓がバクバクと忙しく動いている気がして、意識してゆっくりと息を吐く。  こんなところで、みっともない醜態を晒すわけにはいかない。静かに深呼吸を繰り返す。次第に落ち着き始めた動悸にほっとして、篤生は暗い画面に視線を落とした。  ――なんで。  なんで、いまさら。もう何年も連絡なんて取っていなかったのに。理解ができなくて、疑問ばかりが頭の中に渦巻いていく。わからない。はっきりとしているのは、一夏からのコンタクトであるということだけだった。  なんで、いまさら、とまた同じことを思って、篤生は溜息をそっと溜息を吐いた。負い目があるから「なんで」と思うだけで、一夏にとってはなんでもないことだったから、ふと思い出して、気まぐれに連絡を取ってみようという気になっただけなのかもしれない。  ――準に話したときは、なんともなかったのにな。  本人に会ったわけでも、声を聞いたわけでもないのに、過剰に反応してしまっている。そんな自分に情けなさを覚えながらも、篤生はどうにかメールの画面を開き直した。  気がつかなかったことにするという選択肢を取ることはできなくて、けれど、家でひとりで確認することは、もっとできそうになかったからだ。
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