9.認めたくないもの

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9.認めたくないもの

 大学も四年目。それももう四ヶ月ほどで卒業という時期になれば、よほどでない限り、受講科目は少なくなる。  かく言う準平も、順当に単位を取り終えているので、最近はゼミの授業があるときくらいしか大学に顔を出していなかった。  週に一度のゼミを終え、次の予定までの時間つぶしに図書館に向かう。学生証をかざして館内に入り、空いている席を探して腰かけたところで、準平は、はぁとひとつ溜息を吐いた。  眼鏡を外して、そのままずるずると机に突っ伏す。ゼミに参加しているあいだは、最低限気を張っていたのだ。  ――調子悪いんだよな、最近、また。  もちろん、篤生と再会した最底辺だったころに比べたら、幾分もマシだ。  ただ、この数ヶ月、篤生とのケアプレイで良い状態で安定していただけに、ひさしぶりの調子の悪さが身体――というか、メンタルにもろに響いている感じがあって、それが少しきつい。  取る選択肢としては、篤生に頭を下げるか、避け続けている専門病院の戸を叩くかのふたつしかないのだけれど。取り出したスマートフォンの画面を見つめたまま、もう一度溜息を吐く。  先週も、先々週も、水曜日。篤生は律義に「今週はどうする?」とメッセージを送ってくれていた。きっと明日も同じメッセージが届くのだろう。    ――気にしてくれてるんだろうなぁ、本当に。  その想像は、準平にとってはひどく容易かった。合わせる顔がないと思っていたし、いつまでも甘えるわけにはいかないと思ってもいた。  けれど、あの人にとっては、自分が避け続けている現状のほうが、よほどストレスであるのかもしれない。
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