9.認めたくないもの

5/12

217人が本棚に入れています
本棚に追加
/145ページ
 Subの考えることは、本当に理解できない。そんなことを、たぶん思っていた。  Normalだろうが、なんだろうが、自分を支配してくれるやつなら、それでいいのか。あんたを傷つけることしかしないやつなのに。  兄に対する苛立ちも一緒くたになっている自覚も、たぶんあった。今、傷つけているのは自分だろうということも。  薄暗い廊下にぺたりと座り込んだ篤生を見下ろしたまま、準平は繰り返した。  ――そんなに兄貴がいいの?  篤生はなにも答えない。なんだかそれがどうしようもなく苛立って、その苛立ちのまま、コマンドを使うことを準平は選んだ。  そうすれば逆らえない、と。本能で知っていたのだと思う。    ――なぁ、『言えよ、ぜんぶ』  苦しそうに篤生の喉が震える。それでもやめようと思うことはできなかった。  自分はDomなのだから、権利があると馬鹿なことを思っていたのだ。  Subを支配する権利。より強いDomがSubを奪う権利。そんなもの、あるはずがないのに。  ――一夏が、……一夏が、いい。  一夏だったら、なんでもいい。絞り出された声は苦しそうだったのに、中学生だった自分の耳には、どうしようもなく甘く聞こえた。  同時に、最低なことをしていると準平は我に返った。パートナーでもなんでもない相手にコマンドを使って、心の中を暴こうとした。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

217人が本棚に入れています
本棚に追加