9.認めたくないもの

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 ――ごめん。  兄貴が羨ましくて、自分が浅ましくて、そう小さく謝ることしかできなかった。しばらくしてから、気にしなくていい、と篤生は言ったけれど、その日を境に、彼は家に来なくなった。  だから、高校生だった篤生と会った記憶は、その日が最後だ。  ――自分のDom性を怖いって思ったのも、たぶんそのときなんだけど。おまえが言うなって話だよな、本当。  そんなもの、あの人のほうが強く感じているに決まっている。スマートフォンの画面を見つめたまま、準平は、はぁ、と溜息を吐いた。  大人になった篤生と会って、彼をSwitchだと知って、そうしてプレイを受け入れてもらえて。  過去を許してもらえたような気持ちに、自分はなっていたのだと思う。  ……いや、まぁ、たぶん、本気で気にしてないんだと、というか、気にしてないと思ってると思うんだけど。  その優しさに甘えて、期待して、自分もあのころと違って大人になったはずだったのに、あのときと同じことをしようとした。  ーーこれも俺の勝手だけど、本当にちゃんともう一回謝ろう。  きっと彼は気にしていない、大丈夫だと言うだろうけれど、大丈夫であっていいはずがないのだから。  
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