9.認めたくないもの

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**  ――職場の近くで待ち伏せしてんのって、冷静に考えると、ストーカーみたいだよな。  自虐的な思考で、準平はそっと息を吐いた。人待ち風情でスマートフォンを触りつつ、区役所の時間外出入り口の様子を窺う。  十九時を少し過ぎた時間だが、着いてからの十分ほどのあいだにも、何人もの人が出入り口を通り、駅のほうへと歩き去っていた。  けれど、まだ館内は明るいので、残っている人も多いのかもしれない。  その「残っている人」の中に彼がいる保証はないものの、連絡を入れようとまでは思わなかった。会うことができたらいいし、会うことができなくてもいい。  そんな賭けのような状態で足を運んだのは、様子を見て安心したい半面、安心できなかった場合の不安に負けたせいなのだと思う。  ――いや、でも、家に直接押しかけるほうが絶対まずいし。  篤生が嫌がる嫌がらない以前に、自分のことが信用できていない。溜息を呑み込んで、見るともなしに眺めていたSNSに意識を戻した。  そろそろ更新しないとまずいな、と予定を頭に組み込む。卑下しているわけでもなんでもなく、単なる事実として、自分の代わりなんていくらでもいる世界だ。定期的に更新をして、存在を発信していくしかない。
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