9.認めたくないもの

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 ――たぶん、だけど。代わりじゃないって、俺だからいいんだって、そう選んでほしかったんだろうな、俺。  だから、もう気にしなくていいはずの兄のことを、いまだに引き合いに出してしまう。 「あれ、準?」  耳に飛び込んできた声に、準平はぱっと顔を上げた。驚いたふうだった表情を笑顔に変えて、篤生が近寄ってくる。 「やっぱり。どうした? 待ってるなら、ラインくれたらよかったのに」 「いや……」  このあいだのことなんて、なにひとつ気にしていない、と。体現している笑顔を前に、準平もどうにか笑顔を浮かべた。 「その、会えたらいいかな、くらいだったから。仕事邪魔したかったわけじゃないし」  以前、連絡を入れたとき、明らかに残業を切り上げさせてしまったことがあった。そう言うと、なんだ、とほっとした様子で篤生が笑う。  暗がりの中だからはっきりとはわからないけれど、本当になにも問題のなさそうな調子で。 「気にしてくれなくてよかったのに。でも、ありがと。いつから待ってたんだ? 寒くない? 大丈夫?」 「いや、大丈夫だけど。というか、よくすぐにわかったね」  これでも、気配を消すことは得意でいるつもりなのだが。なんだかんだと篤生にはいつもすぐに見つかってしまう気がして、準平は苦笑を返した。 「準はけっこうどこにいてもわかるよ。目立つから」 「目立つ?」  そう、と頷いた篤生が説明を続けようとしたタイミングで、秋原、と彼を呼ぶ声がかかった。   
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