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――たぶん、だけど。代わりじゃないって、俺だからいいんだって、そう選んでほしかったんだろうな、俺。
だから、もう気にしなくていいはずの兄のことを、いまだに引き合いに出してしまう。
「あれ、準?」
耳に飛び込んできた声に、準平はぱっと顔を上げた。驚いたふうだった表情を笑顔に変えて、篤生が近寄ってくる。
「やっぱり。どうした? 待ってるなら、ラインくれたらよかったのに」
「いや……」
このあいだのことなんて、なにひとつ気にしていない、と。体現している笑顔を前に、準平もどうにか笑顔を浮かべた。
「その、会えたらいいかな、くらいだったから。仕事邪魔したかったわけじゃないし」
以前、連絡を入れたとき、明らかに残業を切り上げさせてしまったことがあった。そう言うと、なんだ、とほっとした様子で篤生が笑う。
暗がりの中だからはっきりとはわからないけれど、本当になにも問題のなさそうな調子で。
「気にしてくれなくてよかったのに。でも、ありがと。いつから待ってたんだ? 寒くない? 大丈夫?」
「いや、大丈夫だけど。というか、よくすぐにわかったね」
これでも、気配を消すことは得意でいるつもりなのだが。なんだかんだと篤生にはいつもすぐに見つかってしまう気がして、準平は苦笑を返した。
「準はけっこうどこにいてもわかるよ。目立つから」
「目立つ?」
そう、と頷いた篤生が説明を続けようとしたタイミングで、秋原、と彼を呼ぶ声がかかった。
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