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「大丈夫だよ。でも、ありがとな」
また大丈夫と言わせてしまったな、と思ったものの、それ以上を確認することはしなかった。安心させるようにもう一度ほほえんで、篤生が同僚に向き直る。
「そういうことだから。大丈夫」
ちゃんと説明するし、と続いた台詞に、納得したふうに相手が頷いたことがわかった。肩を叩いて、じゃあ、とあっさりと帰っていく。
その背中を凝視してしまっていたことに気づいて、準平は視線を外した。凝視だけならまだしも、睨みそうになっていた気がしたのだ。
――だから、嫌なんだ。
すぐに主張しそうになるDomの性が心の底から面倒くさい。
「ごめんな、準」
「あ、いや……」
申し訳なさそうな声に、準平は笑顔を取り繕った。気を悪くしたと思わせてしまったかもしれない。
「ぜんぜん。というか、こっちこそ、ごめん。その、……風邪気味って言ってたけど、そういうことなのかなって気になって」
そういうこと。言葉を濁した準平に、篤生が苦笑いを浮かべた。
「そっか、ごめんな」
「うん」
「本当にたいしたことなかったんだけど。……あいつが余計なこと言うから」
気にしたよな、と気遣われて、もう一度、うん、と頷く。
気にはした。篤生が想定しているだろうこと以外にも、きっと。けれど、その事実を知られたくはなかった。
なんでもない世間話の調子で、会話を続ける。
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