9.認めたくないもの

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「同期の人って言ってたけど、仲良いんだね。同じ課の人だったりするの?」 「そう。俺と同じで資格持ちなんだけど、たぶん、だからちょっといろいろ気にしてて」  その言葉に、ほんの少しどきりとする。自分のことを話したことがあると篤生は言っていたけれど、それはどんなことだったのだろう。  ――相談してたってことだよな、きっと。  彼と同じ、プロである人に。わだかまりを隠して、そっか、と軽い相槌を打つ。 「うん、でも、本当にたいしたことはなくて。ただ、万が一そのせいで調子崩したらまずいなと思って、約束一週間先に延ばしたんだ」 「そうだったんだ」 「ごめんな、迷惑かけて」  本当に申し訳ないと思っているふうに篤生が言うので、苦笑いにしかならなかった。 「迷惑じゃないよ」 「でも、ほら、中途半端な言い方したから、気になったんだろ?」 「それはそうだけど。でも、迷惑じゃなくて心配だっただけ」 「心配?」  あたりまえのことなのに不思議そうに問い返されて、だって、と準平は言い返した。 「俺のせいだよね。篤生くんのそれ」  大丈夫なんかじゃないよね、と。じっと瞳を見つめたまま、告げる。その瞳が困ったように揺れて、けれど、篤生は否定しなかった。  わかっていたことなのに、胸が苦しかった。勝手なことばかり言っていることもわかっている。  それでも、傷つけたいと思ったことはないつもりなのだ。まったくうまくできていないけれど。 「ごめん」    変わらない謝罪を繰り返した準平に、困っていることを隠さない態度で篤生が笑った。
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