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10.一歩ずつ、少しずつ
「なんか、はじめてここに来たときみたいな顔してるな」
場を和ますつもりだったのか、そんなことを言いながら、ローテーブルを挟んだ向かいに篤生が腰を下ろした。はい、と笑顔で渡されたマグカップを受け取って、ぎこちなく、ありがと、と頷く。
たしかに、心境としては似た部分もあるのかもしれない。マグカップの中身は白湯ではなく、いつのまにかあたりまえに用意されるようになった紅茶に変わっていたけれど。
そういった、この人にとっては当然なのであろう善意に、いつも満たされていた。
――そこで満足しておけばいいのに、なんで欲張りたくなるんだろうな、本当。
「でも、そうだよな。あのときも半ば無理やり連れてきたけど、今日もちょっと無理やりだったな」
ごめんな、と謝られて、はっと準平は頭を振った。笑みを張りつける。
「いや、……っていうか、俺のこと気にしてくれたんでしょ。むしろ、ごめん」
外で話したいと言った準平を家に呼んだのはたしかに篤生だったけれど、モデルをしている自分のことを気にしてくれたのだと知っている。
「いや、それこそ勝手なお節介なんだけど、ちょっと気になって。前にも言ったけど、うちの課にも準のこと知ってる人ちたからさ、わかる人にはわかるんだろうなと思って」
「うん、ありがと」
頷いて、一口紅茶を飲む。
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