10.一歩ずつ、少しずつ

6/10

217人が本棚に入れています
本棚に追加
/145ページ
 ――でも、そっか。  いまさらながらに、準平はひとつ得心した。再会してすぐのころ、兄と連絡を取り続けているものと思い込んで、「兄から自分のことを聞いていないのか」と篤生に尋ねたことがあった。  そのときのはっきりとしなかった反応の理由は、これだったのか。    ――ずっと一緒にいると思ってたな。  社会人になって距離が離れても、どこかで繋がっているのだろう、と。そう。おかしいと感じる部分もたしかにあったものの、自分の知る篤生は、兄のことをいつも一番に考えていたから。  それで、――篤生とは違う部分も多かったけれど、兄もそうだった。 「そういうわけだったんだけど、準にはなにも説明できてなかったから。繰り返しになるけど、ちょっと気になってたんだ」  だから、あの当時にあったことも、なにも気にする必要はないと言われているみたいだった。謝ろうと思っていたのに、気がつけば、すべてを先回りで許してもらってしまっている。  敵わないなぁ、と心底思う。あのころよりは自分も大人になったはずなのに、彼のほうが変わらずずっと大人のままだ。  自分の罪悪感のためにこれ以上の謝罪を繰り返すことはやめて、そっか、と準平は頷いた。 「でも、気にしてくれて、ありがと。俺も、ずっと気になってはいたから」 「だろうな」 「うん。……だから、篤生くんとまた会えてよかった」    本当は、声をかけられたとき。彼だと気がつくまでは、面倒な相手に捕まったと辟易としていたのだけれど。そう苦笑してから、でも、と言葉を継ぐ。 「篤生くんは気にしなくていいって言ってくれると思うんだけど、やっぱりちょっと甘えすぎてたなって、そこは反省してる」
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

217人が本棚に入れています
本棚に追加