10.一歩ずつ、少しずつ

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「……そっか」 「あんまりよくないと思ってる?」 「そんなことはないよ」  静かに首を横に振った篤生が、ただ、と少し寂しそうにほほえむ。 「結局、あんまり役に立たなくて悪かったなって思っただけ。変な気も使わせて、ごめんな」 「篤生くん」  改めてしっかりと準平は呼びかけた。変な気を使わせたこともぜんぶ自分の台詞だと思ったからだ。 「俺が思い切れたの、本当に篤生くんのおかげだから」 「うん」 「迷惑かけてばっかりだったけど、本当にありがとう」 「迷惑じゃないよ」  見慣れた柔らかな顔で、篤生が苦笑する。 「昔から、準にされたことで迷惑なことなんて、ひとつもなかったよ」 「……うん」 「準は、かわいい弟みたいなものだったから。もちろん、今も」  ――弟、か。  屈託に蓋をして、うん、と同じ相槌を繰り返す。なにをしても許されるのは、彼の性格もあるだろうけれど、弟だからなのかもしれない。  そんなことを考えたまま、準平は淹れてもらった紅茶に口をつけた。  聞きたいことは、本当はいくらでもあった。篤生は大袈裟だと否定していたけれど、倒れたということは事実だったのだろうし、今も顔色が良いとも思わない。  ――でも、聞けないな、ちょっと。  自分の感情がまた制御できなくなったら、と思うと、純粋に恐ろしかった。  
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