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「……そっか」
「あんまりよくないと思ってる?」
「そんなことはないよ」
静かに首を横に振った篤生が、ただ、と少し寂しそうにほほえむ。
「結局、あんまり役に立たなくて悪かったなって思っただけ。変な気も使わせて、ごめんな」
「篤生くん」
改めてしっかりと準平は呼びかけた。変な気を使わせたこともぜんぶ自分の台詞だと思ったからだ。
「俺が思い切れたの、本当に篤生くんのおかげだから」
「うん」
「迷惑かけてばっかりだったけど、本当にありがとう」
「迷惑じゃないよ」
見慣れた柔らかな顔で、篤生が苦笑する。
「昔から、準にされたことで迷惑なことなんて、ひとつもなかったよ」
「……うん」
「準は、かわいい弟みたいなものだったから。もちろん、今も」
――弟、か。
屈託に蓋をして、うん、と同じ相槌を繰り返す。なにをしても許されるのは、彼の性格もあるだろうけれど、弟だからなのかもしれない。
そんなことを考えたまま、準平は淹れてもらった紅茶に口をつけた。
聞きたいことは、本当はいくらでもあった。篤生は大袈裟だと否定していたけれど、倒れたということは事実だったのだろうし、今も顔色が良いとも思わない。
――でも、聞けないな、ちょっと。
自分の感情がまた制御できなくなったら、と思うと、純粋に恐ろしかった。
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