11.前進

1/6

217人が本棚に入れています
本棚に追加
/145ページ

11.前進

『昨日、病院だったんだろ。どうだった?』  撮影の隙間時間に確認したスマホに届いていたメッセージを一読して、ふっと準平は表情をゆるめた。あいかわらずマメだなぁ、と思うけれど、たぶん、それ以上に心配をかけてしまっているのだろう。  病院に行くことにした、という話をした夜以降、篤生から入る連絡は格段に増えていた。自分が病院を嫌がっていたことを承知していることと、一度関わった人間としての彼の責任感が理由だろうと準平は思っている。  その証拠に、メッセージの大半は、ダイナミクスに関することだ。合間合間にとりとめのない世間話のようなものが挟まっているものの、彼の気遣いゆえのものに違いない。    ――まぁ、弟みたいなものだから気にかけてくれてるってだけで、本当に他意はないんだろうけど。  このあいだ家に行ったときに、改めて思い知ったことだ。そのラインを越えないように気をつけて、返信を打ち込む。 『大丈夫。ちゃんと行ったし、薬も処方してもらってる』  嘘ではない。事実だ。さすがに行かないといけないと腹を括ったから、きちんと病院を紹介し直してもらって、あのあとすぐに通い始めている。  でも、まぁ、篤生くんが知りたいのは、こっちじゃないんだろうな。気は進まなかったが、余計な心配をかけたくはない。自身に言い聞かせて、準平は続きを送信した。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

217人が本棚に入れています
本棚に追加