11.前進

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 ** 「あ、準平。ちょっと」  予定を少し越したものの撮影も無事に終わり、帰ろうとしていたところを菅原に呼び止められて、準平は振り返った。近づいてきた菅原に問いかける。 「なんか、スケジュール変更でもありました?」 「いや、そっちじゃなくて。確認だけど、おまえ、ちゃんと、紹介したとこ行ってんだよな」 「……行き始めましたけど?」  事務所に紹介してもらった病院だったので、一応、報告もしたつもりだったのだが。  ――また調子悪そうとでも思われてんのかな。  余計な心配をされたくはなくて、準平は笑顔を取り繕った。それに、病院に通い始めたことは事実だ。効果がまったくないわけでも、きっとない。 「大丈夫ですよ、ちゃんと行ってますから」  安心してください、と強調すると、菅原がほっとした顔になる。それは、まぁ、この人も、面倒ごとの火種はないに越したことはないだろう。 「ならいいんだよ。本当にただの確認だから、時間取って悪かったな」 「あぁ、いえ……」 「というか、おまえ、成人してっけど、まだ学生なんだから、ちゃんとそういうことは家にも――っと、はい、行きます、行きます」  べつの人に呼ばれた菅原が、すぐに行く、とそちらに向かって声を張り上げる。そうしてから、今ひとつ話についていくことのできていない準平の肩を叩いた。中途半端なままに話を切り上げる。
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