11.前進

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 頭ではわかっていても、どうしても億劫さが勝ってしまう。べつに、親との関係がめちゃくちゃに悪いというわけではない。  小言が増えたことも、篤生の言うとおり、自分を心配してくれてのことだとわかっている。でも。  ――拗ねてるわけじゃないけど、結局、兄貴寄りだから。  自分がなにをどう言ったところで、優しい兄がそんなことをするわけがないと信じている。  本当に幼かったころは幾度か訴えたことがあったけれど、構ってほしいがために自分が嘘を言っている、あるいは、小さなことを大袈裟に訴えている、というふうにしか捉えてもらえなかったから、いつしか主張することを諦めてしまった。  そういった積み重ねが今の自分をつくっているのだろうな、と思う。根本的なところで自身がなくて、でも、誰かに特別に愛されたくて。その特別に一番飢えていたころに優しくしてくれた人に、この年になっても固執している。  それはいったい、どういう感情なのだろうか。たまに不安になる瞬間がある。  ――さすがにそこまで性格悪いと思いたくないんだけど、兄貴に勝てる、とでも思ってんのかな。  兄が気に入っていた、自分以外に唯一素の表情を見せていた幼馴染みが、自分を選んでくれたら。なにひとつ勝つことのできなかった兄に、勝てるのではないか、とそんなことを。
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