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頭ではわかっていても、どうしても億劫さが勝ってしまう。べつに、親との関係がめちゃくちゃに悪いというわけではない。
小言が増えたことも、篤生の言うとおり、自分を心配してくれてのことだとわかっている。でも。
――拗ねてるわけじゃないけど、結局、兄貴寄りだから。
自分がなにをどう言ったところで、優しい兄がそんなことをするわけがないと信じている。
本当に幼かったころは幾度か訴えたことがあったけれど、構ってほしいがために自分が嘘を言っている、あるいは、小さなことを大袈裟に訴えている、というふうにしか捉えてもらえなかったから、いつしか主張することを諦めてしまった。
そういった積み重ねが今の自分をつくっているのだろうな、と思う。根本的なところで自身がなくて、でも、誰かに特別に愛されたくて。その特別に一番飢えていたころに優しくしてくれた人に、この年になっても固執している。
それはいったい、どういう感情なのだろうか。たまに不安になる瞬間がある。
――さすがにそこまで性格悪いと思いたくないんだけど、兄貴に勝てる、とでも思ってんのかな。
兄が気に入っていた、自分以外に唯一素の表情を見せていた幼馴染みが、自分を選んでくれたら。なにひとつ勝つことのできなかった兄に、勝てるのではないか、とそんなことを。
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