11.前進

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「……一緒じゃん、それ」  思わずこぼれたひとりごとにはっとして、誤魔化すようにマフラーを引き上げて口元を隠した。あの人に言うつもりはない。けれど、準平は知っていた。  兄は幼馴染みである篤生のことを気に入っていた。甘えてもいた。でも、たぶん、篤生が兄に向けていたような感情は抱いていなかった。  にもかかわらず、あんなふうに親密な関係を装っていたのは、自分が彼を特別視していたからだ。溜息を吐きそうになったタイミングで、ポケットのスマホが震えた。  頻繁にやりとりをする相手は、準平にはそういない。時間的にも篤生からの返事かもしれない。そう思って確認した画面に表示された名前に、ほんの少しほっと心が凪いだことを自覚する。  ――我ながら単純だよな、本当。  昼に返した報告について、教えてくれてありがとう、と毎回律義に礼を述べるところが、どうにも彼らしい。まぁ、それだけでなく、かなり気を使われている結果の気もするのだけれど。 『それならよかった』 『それと、準がよかったらだけど、今度の金曜、ごはんでも行かない?』  外で会おう、と言ってくれているのは、このあいだ会ったときに、自分が家に行くことをためらったからだろう。どうしよう、と悩んだものの、準平は結局、「行く」とメッセージを返した。  直接会って確認したいだけかもしれない。けれど、彼からダイナミクスに関しないことで誘われたことは、再会してからたぶんはじめてで、そのことがすごくうれしかった。   
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