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12.自覚
「おつかれ。あのあと、どうだった?」
「……影浦」
職場に到着するなり、おはようもなにもなく、にやにやとしたしたり顔に出迎えられて、篤生は溜息を呑み込んだ。自分の机に鞄を置いて、ブラインドの下りたままの窓辺に向かう。
「それ聞くために、こんなに早く来たの? もしかして」
一番に着いたのなら、ブラインドの開閉くらいしたらいいのに、と内心で少し呆れながら、ブラインドを開けていく。この調子だと、キャビネットの鍵も開けていないに違いない。
そういう雑用をすることはまったく苦ではないので、べつにいいのだが。
「まさか。残業したくないから、その代わり」
「なに、また飲み会? 山井さんに怒られたから控えるって言ってなかった?」
「控えてる、控えてる」
「まぁ、べつにいいけど」
べつにいいけど、たまに、俺のとこに行動確認の連絡が来るんだよなぁ、との事実も呑み込んで、書類の入ったキャビネットの鍵を開けていく。
影浦の彼女である山井は、課こそ違うものの二期上の先輩で、お世話になってもいるのだから、どうにも頭が上がらないのだ。
「それで? おまえはどうだったんだよ、あの子。えぇと、戸嶋くんだっけ?」
「どうもなにもないけど」
開錠を続けながら、できるだけ淡々と篤生は苦言を呈した。
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