12.自覚

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「でも、なんで、そんなに嫌がってたんだ、その子?」  世間話に近い調子だった。興味があるのだとすれば、自分たちのことではなく、一ケースとしてなのだろう。そうわかったから、おざなりに誤魔化すことはしなかった。  あるいは、吐き出して、糾弾されたかったのかもしれない。 「半分は俺の推測だけど。たぶん、Domが嫌いなんだと思う」 「自分のダイナミクスと向き合えてないって話か」  なるほど、というふうに影浦が頷いたことがわかった。圧倒的にSubの割合のほうが多いものの、自分のダイナミクスを認めることができないというケースは、それなり以上にあるのだ。  もっとも、そのほとんどは、中学生になったときの検査後に生じ、カウンセリングを通じて落ち着いていくものであるのだけれど。 「Domではちょっと珍しい気もするけど。……あぁ、でも、数値の高いやつで、『怖い』っていう子は、いるはいるか」 「そうだな」 「繊細な子ばっかりだけど。そういう子って、だいたいSubを傷つけるのが怖いっていうんだよな」  影浦のほうには視線を向けないまま、そうだな、と同じ相槌を篤生は繰り返した。正に、再会したころの準平が言っていた台詞だった。 「わからなくはないというか、ある意味で、めちゃくちゃ正常な感覚だとは思うんだけど」  でも、と影浦が続ける。気のせいか、かすかな自己嫌悪が混ざったような声だった。
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