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それ以上なにかを言う気にはなれなかったらしく、沈黙してパソコンに向き直る。もろもろを呑み込んだような表情を気の毒に思いつつ、篤生も共有フォルダから作成中だった文書を開いた。
苛立ちの理由の半分は、野沢との相性の問題だろうが、残り半分はその前の自分とのやりとりに違いない。
――でも、本当にそんなつもりはないんだけどな。
物足りない顔もなにも、本当にそもそもで言ってもいいのなら、さすがにこの年になれば「そういうものだ」と割り切ってはいるけれど、それでも、篤生は自分の持つSubの欲求に抵抗がある。
だから、基本的にDomに寄せるようにしていた。そうやって、問題なく付き合っていたのだ。
――ひさしぶりにSubに寄せすぎたのは、だから、まぁ、まずかったんだろうな。
調子を崩した原因のひとつは、それだと一応は認めている。お役御免となった今、なにをしなくとも調子は戻っていくだろうけれど。
徐々に職員が増え、にぎやかになっていく空間のなかで、篤生はそっと溜息を呑み込んだ。
――一夏の話を出したのは、余計だったかな。
なんでもないというふうな態度を自分が取ることで、準平の罪悪感が薄れたらいいと思っていたのだが、あの兄弟の距離感を、篤生は今ひとつ掴み切れないでいる。
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