12.自覚

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 ひさしぶり、元気にしてる? 当たり障りのない文面が、どうにも余所余所しくて落ち着かない。  昔、一夏とよくやりとりをしていたころ、一夏からくるメッセージのほとんどは前置きもなにもない簡素なものだった。素っ気ないくらいの、自分の用件だけを伝えるもの。  ――それでも、逆にうれしかったんだよな、俺。ほかの誰にも絶対にやらないことだって知ってたから。  誰にでも優しくて、気遣いをしてばかりの幼馴染みが、自分にだけ甘えている証拠だと思っていたから。  できる限り感情を抑えて、文面を読み進める。社交辞令のような近況報告の最後、出てきた準平の名前に、あぁ、と篤生は得心した。 『うちの親に聞いたんだけど、最近、弟の面倒見てくれてるんだって? ごめんな、迷惑かけて。あいつ、俺には絶対連絡してこないから、ちょっと気になって』  ――そっか、知ってたのか。  準平はあいかわらず一夏のことを苦手がっていたけれど、一夏はもうそんなふうには思っていないのかもしれない。  文面からにじむ雰囲気は、連絡不精の弟を心配する兄そのもので、勘繰った自分の意識過剰を篤生は恥じた。  準平の様子が気になって、悩んだ末に自分に連絡を入れてくれたのかもしれないと思い直したからだ。
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