12.自覚

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『ひさしぶり』  そう打ったところで、指先の動きが止まった。どういうふうな調子で文面をつくればいいのかわからなかったからだ。そもそも、高校生だったころの自分は、いったいどんなふうに一夏とやりとりをしていたのだっただろうか。  ――いや、べつに、ふつうに返したらいいだろ。  急速に湧き上がった不安を振り切って、届いたものと似た当たり障りのない文章を作成する。我に返ったら駄目だと言い聞かせて、半ば勢いで。  けれど、求められている言動を取ることは、昔から得意だ。誰に対しても、そうだけれど、とくに一夏に対しては。一夏が嫌がらない、踏み込み過ぎない適度な距離。対人関係に置いて好む根底的なものは、きっとそう簡単には変わらない。 『気にしてくれてありがとう。準とは本当にたまたま会ったんだけど、ぜんぜん迷惑じゃないよ。面倒見てるってほどのこともしてないし』  近況に触れることは選ばず、そうとだけ篤生は返事を送った。一夏が準平の現状をどこまで把握しているのかわからなかったということもあったけれど、なによりも準平が一夏に知られたくないだろうと思ったのだ。
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