12.自覚

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『準平と会ったってことは、篤生も東京にいるんだろ。だったら、ひさしぶりに。聞きたいこともあるし』  聞きたいことって、準のことだよな。どうしようかな、と画面を見つめたまま、篤生は思い悩んだ。    ――会いたくないわけじゃ、たぶん、ないんだけど。  顔を合わせないように努めていたのは、一夏がどういうスタンスなのかがわからなくて、怖かったからだ。けれど、もうあたりまえに一夏がなにも意識しておらず、ただの幼馴染みだったころのスタンスに戻っているのだったら――。  また、メッセージを読み直す。こちらを気遣う雰囲気に、多少の違和はある。でも、それは、自分が知らないあいだに大人になったからだと思うことのできる範囲である気がした。    ――あたりまえだよな。もう何年も前のことなんだし。  社会人になった一夏は、過去のことは忘れて充実した日々を送っているのだろう。準平のことがなければ、自分のことを思い出すこともなくて。そうして思い出したとしても、それは、ほんの一時期の「おかしかった」記憶ではなく、それ以前の仲の良い幼馴染みだったころのことなのだ。  だから、会おうと簡単に声をかけてくれる。 『ごめん、迷惑だった?』    返事を迷っているあいだに追加で届いたそれに、篤生はひとつ諦めた。そもそも、一夏のお願いを断れたことなんて、ほとんど一度も自分にはないのだ。
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