0.プロローグ

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「ほら、あの人。なんか、調子悪そうじゃない?」  調子が悪そう、というフレーズに反応してしまったのは、半分は職業病だ。  近くに座っていた女子大学生ふうのふたり連れに、思わず視線が動く。いかにも今時といった感じの、きれいな女の子。その女の子の片方が、嫌そうに眉をひそめる。 「やめときなって。関わんないほうがいいよ。どうせ酔っ払いでしょ」 「でも」 「クスリとかだったら、もっとヤバいじゃん。無視、無視」 「まぁ、そうだよね」 「そう、そう。それよりさぁ」  あっさりと移り変わった話題に、篤生も視線を外した。  ――Subの子がすることじゃないよな、本当。あの男の子、Domだし。  おまけに、酔っ払いでもクスリでもなんでもなく、あれはダイナミクスの不調だろう。  これも仕事柄というべきなのか。相手がDomなのか、Subなのか、ダイナミクスの状態も含めて、篤生はだいたい一目でわかる。「大丈夫かな」と言っていた子はNormalで、もうひとりの子はSub。それで、あの男の子がDom。  ダイナミクスの問題で体調を崩すのは圧倒的にSubが多いから、そういう意味では珍しいかもしれない。  ――Dom、なぁ。  もう一度、ちらりと目を向ける。声をかけたところで、嫌がられる予感しかしないから困るのだ。  ひとくくりにすることもどうかと思うが、得てしてDomはプライドが高くできている。  関わり合いになりたくないという気持ちもなくはない。  ……まぁ、でも、しかたないか。  諦めて、篤生は立ち上がった。お節介とわかっていても無視できないのだから、ダイナミクスというものは本当に面倒だと思う。  そういう意味では、あの男の子も同じなのだろうけれど。
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