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1.再会
「なんか、ごめんな。無理やり連れ込んで」
電気ケトルで湯を沸かしながら、篤生はそう話しかけた。戸嶋準平は、地元にいたころの四つ下の幼馴染みだ。正確に言うと友人の弟ではあるのだけれど、篤生自身も弟のようにかわいがっていた。
無言が気になって窺うと、所在なさそうに座っていた準平が小さく頷く。
降りると言っていた駅を通り過ぎてしまったから。自分のマンションがちょうど次の駅で、駅からも近いから。
そう理由をつけて連れ帰ったのだが、さすがに強引すぎたかもしれない。
――っていっても、見ず知らずの相手でもない以上、放っておけないし。
「もう何年だっけ。五年? 六年? 会うの、けっこうひさしぶりだよな」
「八年」
場を和ますつもりで再度話しかけると、ようやくはっきりとした答えが返ってきた。
「秋原さん、大学で上京してからぜんぜん帰ってこなかったでしょ。もうそれだけ会ってないよ」
「なに、秋原さんって。昔みたいに篤生くんでいいよ。俺も準って呼ぶから」
他人行儀な呼称を笑って、ローテーブルを挟んだ向かいに腰を下ろす。調子の悪いときは白湯くらいがいいだろう、と手にしていたマグカップのひとつを差し出すと、準平がぺこりと頭を下げた。
キャップとマスクを外した顔を見ていると、篤生の記憶の中の面影がさらに強くなった。準平だなぁ、と思う。随分と大人っぽくなっているし、ちょっとびっくりするくらい華のある美形になってはいるけれど。
――なんか、背もすごい伸びてるし、本当に大人っぽくなったな。大学四年生って言ってたし、そんなものかもしれないけど。
かつての篤生と同じように、大学進学で上京しひとり暮らしをしているのだという。その話を聞いて、強引にでも連れ帰ってよかったとほっとした。
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