4.酒は飲んでも吞まれるな

5/5
前へ
/145ページ
次へ
「なら、いいんだけど」  としか、もはや言いようがなかった。どうにか笑みを浮かべて、行ってらっしゃい、と見送りの言葉をかける。 「あ、そうだ、篤生くん」 「なに?」  思い出したように声をかけられて、なにを言われるのかとドキリと身構える。その内心が透けていたのか、からかう調子で準平が目を細めた。 「あれくらいでお酒強いって言わないほうがいいと思うよ?」  「え」 「じゃあ、篤生くんも気をつけて仕事行ってらっしゃい」  がんばってね、という二日酔いとは無縁そうな爽やかな声を最後に、ぱたりと扉が閉まる。 「……え?」  玄関に立ち尽くしたまま、呆然と呟く。なんだかものすごく気になる含みがあったような。 「って、やばい。仕事!」  なにをしでかしたのかなどと呑気に考えている場合じゃない。急いで準備を整えにかかった篤生が、「もしかして、昨日、お金を払ってないのでは」というとんでもない事実に気がついたのは、いつもより一本遅い電車に滑り込んでからだった。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

217人が本棚に入れています
本棚に追加