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5.近づく距離と遠のく心
『準、本当にごめん! 俺、昨日、お金払ってない気がしてきたんだけど、払ってないよな? お金送らせてもらってもいい?』
『やだよ、いいよ。いつもいろいろしてもらってるし』
『でも、ほら、準もお金稼いでるとは思うんだけど、まだ学生だし』
『じゃあ、いっぱいケアもしてもらってるし、その代金ってことで』
『いや、それは絶対駄目!』
『駄目って、適当にお金送ってこないでよ。送ってきたら、篤生くんはお金で解決するんだってちょっと思うから』
『いや、その、お金で解決っていうか』
まぁ、その、たしかに、そういう意図がまったくなかったとは言わないけれど。
しどろもどろの返信が憐れになったのか、準平からの返信の雰囲気がゆるむ。届いたのは、こちらが受け止めやすい代替え案だった。
『じゃあ、今度、篤生くんのよく行くところ連れてって』
――本当、今度、ちょっといいとこ連れてってやらないとな。
それでチャラになるとは思えないものの、せめてそのくらいはしないと割に合わないし、自分の気が治まらない。数日前のラインのやりとりを見返して、最後の一文を親指でなぞった。
迷惑をかけておいて言える台詞でないことは重々承知しているけれど、それでもやっぱりかわいいな、と思う。本当に弟だったら、毎日がこんな感じなのだろうか。
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