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――いや、まぁ、準は一夏の弟だけど。
小さいころは本当によく一緒だったから、境界線が曖昧になっているのかもしれない。
こぼれそうになった笑みを隠して、スマートフォンを上着のポケットにしまうと、区役所の最寄り駅で電車を降りた。昼間の駅構内は、朝の通勤ラッシュの混雑に比べると幾分もマシで、いつもこのくらいならいいのにな、と思う。
篤生が生まれ育った町は、典型的な地方都市だった。大学進学で上京した直後、人の多さに圧倒されたことを今でも覚えている。
八年経った現在「人混みは疲れる」くらいの感覚で済んでいるのは、この街に馴染んだ証拠なのかもしれない。あの町を出るよう自分に勧めてくれたのは、中学、高校という多感な時期にお世話になったカウンセラーの先生だったけれど、従ってよかったと篤生は思っている。
人と人の関りが密すぎないこの街が、すぐに深入りしてしまう自分には、たぶん、合っているのだ。
「すみません、午前休ありがとうございました」
昼休みで在籍している職員もまばらな課内に一声かけて、自分の席を引く。鞄から封筒を取り出していると、電話を切った影浦が声をかけてきた。
「おつかれ。どうだった?」
「あぁ、うん。ありがと。問題なかった」
「よかった、よかった。休まれたらふつうに困る」
「だよな」
ある程度はお互いさまと割り切るしかないものの、職員数に余裕はない。業務内容が事務に限定される人間が出ると、しわ寄せがとんでもないことになってしまうのだ。
あまり迷惑をかけないためにも、最低限、今回の検査結果を維持しないといけない。
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