5.近づく距離と遠のく心

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「午前中はとくに変わりなかった?」 「問題はなかったけど、一件、おまえあてに連絡入ってたわ。野沢が代わりに聞いてたから、戻ってきたら確認しといて」 「わかった、ありがと」  無人の隣席をちらと一瞥して頷く。自分の机にも付箋は残されていなかったので、昼休憩後に尋ねるしかない。  ――近藤さんかな、もしかして。  安定している時期は安定しているのだが、一度不安定になると、それが少し続くきらいがあるのだ。  そういった上がり下がりを繰り返しながら、揺れ幅が減少していくものではあるのだけれど。  検査結果の入った封筒を課長の席に置くと、篤生は文書キャビネットから当該ケースのファイルを取り出した。  昼休みが終わるまで、まだもう少し時間がある。確認だけしておこう、と。自分の席でぱらぱらとファイルを開いていく。  近藤みつみ。三十四才。女性。中学校入学時のダイナミクス検査で高レベルのSub値を記録。自治体の勧めにより高校卒業までの六年間カウンセリングを受けるも、ダイナミクスの特性に起因する問題行動から不登校気味に。  通信制の高校を卒業後、大学に進学するも中退。就職後も対人関係がうまくいかず短期間での転職を繰り返し、現在は求職中。  Domのパートナーができると依存的になり、両親とも連絡がつかなくなる。定期的に状況を確認する必要がある。特別要支援対象者。
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