5.近づく距離と遠のく心

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 ダイナミクス担当課は、ダイナミクスに関連した生活全般の悩みを受け入れる最初の窓口機関だ。話を聞き、必要とあらば病院や就労支援に繋ぎ、より良い生活を送ることができるよう継続支援を行なっていく。  篤生自身、中学高校とカウンセリングを受けていたが、それも自治体から案内されたことがきっかけだった。  ある程度以上のダイナミクス値を記録すると、要支援者として自治体に登録されるからだ。自分のデータも登録されているだろうと思う。  ――まぁ、とんでもない記録になってないから、今この仕事ができてるんだろうけど。    前回、前々回の記録を読み直しつつ、篤生は溜息を呑み込んだ。べつに、誰かに尽くしたいと思うこと自体が悪いわけではない。なにごとも度が過ぎると問題だという話だ。内心で、自分にそう言い聞かせる。  彼女の場合は「自分がこれだけ尽くすのだから、相手も応えてくれるはず」という欲求が強すぎることが、対人関係の問題を引き起こしているのだが。  ……俺は、そういうふうに思ったことまではなかったけどな。  なんでもしてあげたい、喜んでほしい。そればかりで、思考もすべてそこで停止していた。    ――だからこそ、僕は、きみはその子と離れたほうがいいと思うけどね。それがきみのためであり、その子のためなんじゃないかな。
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