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「心配して、気にかけてるの。純粋に担当職員として」
「えぇ、なんだ。秋原さんも言うなぁって思ってたのに」
悪気もなにもない調子で笑うので、しかたなく篤生はもう一度苦笑を返した。区役所の通路を歩きながら、声を落として話を続ける。
「野沢さんは、このあいだ、Subの尽くし根性って言ってたけど」
「あ、すみません。それはちょっと言いすぎました」
「いや、うん。そこを蒸し返すつもりはないんだけど、そういうふうに思っちゃう特性が、人より強いことは事実なんだよ。それで生きにくいことも」
「……」
「だからこそ、その特性とうまく付き合っていくために、カウンセリングとか、薬とか、いろんな手段を用いるわけだけど。――もちろん、うちの支援もその一環だけどね」
けれど、手段を尽くしても、すべてがうまくいくとは限らない。そういう意味で、あのころの自分は、カウンセラーとの相性が奇跡的に良かったのだと思う。
あの助言を受け入れていなければ、どうなっていたかわからない。その恩を少しでも返したくて、この仕事に自分は就いた。
「でも、それで、どうにか付き合えたとしても、特性がなくなることはないから、しんどいんだよ、ご本人も。パートナーも」
「パートナーも、ですか?」
「うん。行き過ぎた献身は、相手を傷つけることもあるからね」
「そういうものですか」
よくわかっていない顔で野沢が頷く。わからないほうが、感覚としてはきっとまともなのだろう。たぶんね、とだけ篤生は応じた。
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