5.近づく距離と遠のく心

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 そもそもの話ではあるけれど、加害のケースは圧倒的にDomに多いのだ。逆のパターンの想像が難しいことはしかたがないし、主導で担当するケースが増えたら、自然と視野も広がっていくはずである。 「あの、さっきのケース、今日はだいぶ落ち着てるなって思ったんですけど」 「うん」 「どういうときは注意したほうがいいとかってあるんですか?」  事務仕事じゃないことで積極的に尋ねてくるなんて珍しい。内心そう驚きつつも、そうだな、と篤生は説明を始めた。 「いろいろあるけど。なんか、らしくないな、とか。違和感のある言動を連発してるなって思ったときは、その違和感を信じてもいいのかも」 「へぇ」 「あとは、テンションが低すぎるときも怖いけど、やたら高いときのほうが怖いかな。個人の感覚だけど」  細かく言い出せば切りはないけれど、興味を持ってその人となりを見るところから始めたらいいと個人的には思っている。  こうやって尋ねてくれただけでも進歩ではあるのだろうし。    ――まぁ、あと三ヶ月もしたら、新人の子がまた入ってくるけど。  そうなると、また一から教えるところから始めないといけない。いや、でも、野沢さんが教育係になる可能性もあるのか。 「……」  なにやら考え込んでいる横顔を凝視していると、野沢がおもむろに口を開いた。
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