5.近づく距離と遠のく心

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「それって……」 「ん?」 「秋原さんのこと言ってます?」 「え?」  予想の斜め上を突き抜けた反応に、つい素で返してしまった。「は?」と言わなかっただけ、良しとしてほしい。 「あ、違うならあれなんですけどぉ」  けらけらと笑いながら、「それに、最近、秋原さん機嫌良いし」と野沢が言う。 「いや、まぁ、べつに、ふだんも悪くはないですけど。余計にっていうか。あと、このあいだ急に残業やめて帰ったって聞いたから。らしくないなーって」 「……誰から?」 「笹井さんです。絶対彼女だよ、どんな子なのかなぁって言ってましたよ」 「……」 「あの人、若い人の噂話、大好きじゃないですか。秋原さん迂闊すぎ」  たしかにそういう人なので、返す言葉がなかった。悪い人ではない。ないのだけれど、本当にその手の話が大好きな人なので。  再び黙り込んだ篤生に、「それとも」ととどめのように野沢が目を輝かせた。 「そういうこと、頭から飛んじゃうような相手だったんですか?」
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