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「でも、マシになったなら、本当によかったな。俺も安心した」
「篤生くん」
「病院に定期的にかかるようになったら、きっともっと良くなると思うよ」
「篤生くん」
二度目の呼びかけに、一方的に自分が話していたことに気がついた。はっとして謝ろうとしたのだが、それより早く伸びてきた指が腕を掴んだ。
「篤生くん、俺とするの、嫌?」
「いや……」
そういうことじゃなくて、と言うつもりだった台詞が、目が合った途端に、喉の奥で止まる。じっと見下ろしてくる、Domの強い瞳。
「俺は、篤生くんとしたい。篤生くんがいい」
ぐらりと視界が回りそうになる感覚を必死に堪えて、自分に言い聞かせる。よくあることだ。
そう、所有力の強いDomにはよくあることなのだ。恋愛感情だとか、そういうことではなく、本能に近いもの。
駄目だとわかっていても、自分がお節介を働きたくなることと、一緒だ。おかしなことではない。
強いて言うなら、自分がなにかタイミングを誤ったというだけのことだ。だから、あたりまえの話ではあるけれど、準平のせいではない。
そっと息を吐いて、篤生はその目を見つめ返した。
「そうじゃない」
自身のSub性に引きずられないよう気を張ったまま、告げるつもりだった言葉を改めて口にする。
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