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「Domが所有欲が強いのは、よくあることだから。気にしなくていい」
「篤生くん」
腕を掴む指先に、ぐっと力が入る。
「Domじゃなくて、目の前の俺の話してよ」
「……え?」
「俺は、専門のトレーナーだから、とかじゃなくて、篤生くんだから、頼ってるし、話してるつもりでいる」
でも、と感情を抑えた声が玄関に響く。驚いたのは、そんなことを言われるとは思っていなかったからだ。
「篤生くんは違うよね。なんで?」
「なんでって……」
だって、そう割り切らないとできないだろう。そう答えそうになったところで、篤生は口をつぐんだ。そんなこと言えるわけがない。
言えば、なぜだという話になるし、自分はきっと答えることができない。
中途半端に黙り込んだ篤生に、準平が笑った。
「それとも、ぜんぜん似てないから、もういい?」
聞いていたのかという驚きのあとに湧いたのは、じわじわとした罪悪感だった。
そういう意味では、いっさいない。でも、言わなくていいことだったし、聞かせるべきではないことだった。
――気をつけてたんだけどな、だから。
準平が兄の話を出す分には、乗っても問題はない。ただ、自分からその名前を口に出すことはしない。そう決めていたのに、完全にあれは気が抜けていた。
けれど、それをどう説明すればいいのだろう。どう説明しても、言い訳のようになってしまいそうだった。答えあぐねていると、また準平が呆れたふうに笑う。
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