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「べつにいいけど。篤生くん、昔から兄貴のこと好きだもんね」
「……準」
「どこがいいのか、俺にはぜんぜんわからないけど」
棘しかない台詞に、「準」と宥めるように篤生は繰り返した。
小さいころから、――極端な言い方をすれば、生まれたころから準平のことは知っている。
薄ぼんやりとはしているものの、母に連れられて見に行ったことを覚えているし、かわいくて、兄になった一夏が羨ましくて、自分も弟がほしいとせがんで母を困らせたことも覚えている。
けれど、一夏と準平が仲が良かった記憶は、ほとんどと言っていいほどなかった。
……まぁ、本当に小さかったころは、準は、ふつうに一夏と遊びたがってた気はするけど。
それなのに、一夏がつれない態度を崩さないから、自分が取り持っていたのだ。実の兄弟のあいだのことだ。幼いころであれば、あの程度の当たりの強さは、致し方なかったのかもしれない。
ただ、年を重ねても、準平と一夏の距離感が変わることはなく、むしろ、準平が中学に入ったあたりからは冷戦としか表現できない状態になっていた。
いくら血が繋がっていようとも、相性というものがある。一夏と準平は、あまり相性が良くないのだろう。
でも、そんなことは、篤生には、あまり関係のないことだった。一夏は一夏で、準平は準平だった。似ていようが、似ていまいが、関係はなく。
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